木材コラム
木材産業の抱える問題点 1
最近、食品関係業界に於けるさまざまな不祥事がマスコミに取り上げられて大きな社会問題となっていますが、木材産業でも同じような問題が発生しています。監督官庁は食品と同じ農林水産省です。私は2年前まで木材加工機械メーカーの社長をしておりましたが、過剰な開発投資と売り上げの大幅な減少で会社は倒産してしまいました。しかし、開発した商品が本物であったお陰で、スポンサーが現れ、現在も同じような仕事を続けています。木材の場合には川上は森林であり、川下は主に住宅という、まさに環境そのものと言えると思いますが、そのような中で仕事ができることに感謝もしております。そして同時に、人間にとって大切な環境に直結するだけにそれなりの責任感を持って仕事をしてまいりました。それだけに詐欺まがいの行為が平気で行われているの見過ごすわけにはいきません。
問題は川上側と川下側、行政と民間、そして消費者側にもありますが、緊急の度合いの高い順に述べたいと思います。
その第一は住宅に使われている木材についてです。現在、在来工法による木造住宅は1年間に約40万棟建てられていますが、そこに使われる木材の内で住宅の骨格である構造部材には約800万l立法メートルの木材が使用されています。構造部材とは柱や梁、桁および土台の事ですが住宅の耐久性能に重大な影響を及ぼす部品です。あの阪神大震災の倒壊家屋の多くも構造部材に腐れやシロアリの被害が見られたと聞いています。本来ならばヒノキや杉のような腐れやシロアリに強い樹種を完全に乾燥処理をして使うべきですが、近年、コストが安いことと目先の性能が優れていることからホワイトウッドという樹種が多く使われるようになりました。柱材の約60パーセント、全量では1年間に約220万立法メートルも使用されています。
ところがこのホワイトウッドにはその耐久性能に大きな問題が潜んでいます。ホワイトウッドは他の樹種に比べて非常に腐り易く、シロアリに弱い木材なのです。ホワイトウッドの産地は北欧ですが日本のように高温多湿でシロアリの多い地域で使うにはもともと無理な材料なのです。それにも拘らず、なぜ、このように沢山使われるようになったのでしょうか。従来日本では構造部材として無垢材が使われていました。ところがほとんどの無垢材が十分な乾燥処理をしないまま使われたために、住宅になってから多くのクレームを発生させる原因となっていました。ハウスメーカーを始め建築業者からは業界に対して長年にわたって無垢の乾燥材供給の要望が出されていましたが結局その要望に応えることが出来ませんでした。そして、住宅の品質向上が叫ばれるようになる中、あるハウスメーカーがやむを得ず使い始めたのがホワイトウッドの集成材だったのです。しかし、使ってみると変形が少なく、価格もどんどん安くなったために、今では地方の大工さんまでが使うようになってしまいました。
ここで問題になるのはもともと非常に弱い樹種をどのように使うかなのですが、残念ながら多くの場合その対策はなされていません。一般には防腐剤や防蟻剤を含侵すれば良いとされていますが、現在では効き目のはっきりした薬剤は毒性も強いために使うことができないので十分とはいえません。しかし、弱い薬剤でもしっかり注入してあればそれなりの効果はあると思いますが、一般的に、建前後に地面から1メートルくらいの高さまで刷毛で塗るのが行われており、これではほとんど効果は期待できません。さらに悪いことに多くの住宅の工法が構造材を壁で覆ってしまう「大壁工法」であるために壁内で結露を起こし、木材の腐りやすい環境を作り出してしまっています。やむを得ずホワイトウッドを使うならば土台のような部分には使わないようにし、柱材にはしっかり薬剤を注入し、工法は構造材がむき出しになる「真壁工法」を採るべきと思います。
建築業者は50年住宅とか100年住宅とか言っておりますが、ホワイトウッドのような弱い木材を今のように無造作に使っていては、今までの日本の住宅の寿命である25年さえもたないどころか、10年以内に深刻な事態が多発するのではないかと思います。
私の家の近所で最近、家が建ちましたが構造部材は土台を含めてすべてホワイトウッドでした。防腐処理は黄色い薬剤を簡単に塗っておしまいでした。もちろん「大壁工法」です。その家のご夫婦は毎日のように自分たちの夢の実現を見に来ていましたが私は何も言うことができませんでした。しかも、その業者のチラシには構造材は全てレッドパインと記載されています。 レッドパインはホワイトウッドに比べ数段耐久性に優れていますが価格も高い木材なのです。これは詐欺といってもいいと思いますが、あと10万円コストを掛けるだけで土台と柱を杉のような耐久性のある木材に替えられると思うと残念でなりません。木材に関しては一般にはあまり知られておりませんので分かりにくいかもしれませんが、住宅を建てている業者を始め、木材をある程度知っている人ならば、自分の家には絶対に使わない木材がホワイトウッドであるといえば、いかに弱い材料かということがお分かりいただけるかと思います。(大石)
木材産業の抱える問題点 2
第二の問題点は、間接的かもしれませんが、消費者の住宅に対する意識の問題です。ここに分かりやすい数字があります。25年、50年、75年、これはある国の住宅を建ててから壊すまでの年数を表しています。
25年は日本、50年はアメリカ、75年はヨーロッパの平均値です。ただ、これらの数字はそれぞれの耐久性能だけを表しているわけではありません。ライフスタイルの変化や感性的なことも影響していると思いますが、一番は家に対する愛着の度合いであると思います。
戦前の日本には世界に誇れるような住宅の文化や伝統があったと聞いています。それが戦後の急激な復興と高度成長の中でうわべだけが綺麗で便利なものがもてはやされ、他の商品と同じように使い捨て商品になってしまったようです。アメリカやヨーロッパでは今でもそれぞれの地域に根ざした伝統的な工法を守り、町並みまでも住環境とみなして、住宅を建てています。そのため日本のような大手ハウスメーカーは存在しません。
そして木材をはじめとして天然の素材を多く使っていますが、これは天然の素材でなければ経年美は期待できないし、愛着が湧かないからなのです。結果として、日本では住宅を建てた時がゴールであり、アメリカやヨーロッパでは建てた時がスタートということになります。大半の人にとって住宅は物理的にも精神的にも家族を守ってくれるものであり、又、一生で最も大きな買い物でもあります。それが建ててから数年で飽きがきて、10年経ったら建て替えたくなり、ローンが終わる前に本当に建て替えてしまったなどということは本来あってはならないことであると思います。このような馬鹿げた事はもうそろそろ止めにしなければならないのではないでしょうか。住宅に対する意識が低いために前述したように悪い業者にも簡単に騙されてしまう事になるのです。家を建てるときにせめて1〜2冊の住宅の本ぐらいは読んでほしいと思います。(大石)
木材産業の抱える問題点 3
第三の問題点は、木材製品の性能表示(品質表示)がデタラメである事です。
食品業界では産地を偽って表示しただけで大問題になっている時代に、産地を偽るどころか、本当に必要な性能の表示がほとんどされていないばかりか、表示が在っても偽りの表示が平気でされています。
もともと木材業界では量をごまかしたり、品質をごまかしたりすることはごく当たり前に行われてきました。
また、その品質についても、見た目に重点が置かれていたためJISに相当する日本農林規格(JAS)は節の数とか色に関しては異常に厳しいのに、強度性能などの本来必要な性能についてはほとんど無関心でした。
それが、住宅品質確保促進法(品確法)の制定によってようやく関心を持ち始めた段階ですから無理も無いのかも知れませんが、消費者の立場からすればこのような話はもっての外ということになると思います。
行政が中心となって早急に対応してもらわなければなりません。 又、その際に注意すべきは消費者の視点に立って、表示項目等を決めてゆくことであると思います。
第四の問題点は、日本の森林環境をこれからどのように維持してゆくのかという大きな問題です。日本の森林面積は国土の約67%で、そのうち人工林は約41%です。この人工林には戦後だけでも延べにして10億人工以上の人手がかけられています。当時は経済林と呼ばれ、国民の大切な財産と考えられていました。ところが外国からの輸入木材に押され、さらに新建材のような代替品の台頭で国産木材の需要が大幅に落ち込み、最近10年間だけでもその需要が約40%減少しています。現在の木材自給率は約18%です。そして単価も大幅に下がっており、立木単価では30年前よりもはるかに安いのが現状です。ちなみに10.5㎝×10.5㎝×3mの杉の柱角は1本2000円です。40年以上かけて育ったものが単位体積当りでは大根よりも安いことになります。このような状況ですから、補助金をもらっても採算が取れず、ほったらかしになっている森林が増えています。人工林は手入れをしなければ荒廃してしまいます。一方で、日本は世界でも有数の木材輸入国です。国内には伐採を待っている優秀な森林資源が豊富に有りながら、ホワイトウッドのような劣悪な木材を大量に輸入するという事はあまりにも矛盾していると言わざるを得ません。たしかに人工林の約70%を占める杉材はその乾燥が非常に難しく、又、加工にも手間がかかるという欠点はありますが、一部では完全乾燥や自動化の技術はすでに確立しており、それらを普及させれば事足りると思われます。しかし、ここでも木材業界特有の古臭い先入観や思惑が障壁になり、大量の補助金を木材加工施設に投入したにもかかわらず、それらの製材工場はほとんどその役目を果たしていません。そのひとつの原因は食品業界と同じで、行政が消費者ではなく業界の方を向いているからです。因みに、私の同業者である木材加工機械メーカーも次々に廃業や倒産に追い込まれています。木材加工業は装置産業ですから、その装置を作る会社がなくなってしまうことは大変な事態といっていいと思いますが、木材の正しい流れを創るためならばやむを得ないと思いますし、行政はそんなことに気を使うことは全くないと思います。行政はあくまで消費者、国民の視点に立って、具体的な指針を示してほしいと思います。
以上4点の問題提起を致しましたが、これらの問題の解決はそんなに難しいとは思えません。単にそれぞれの思惑が複雑に絡み合っているだけです。
森林環境から住宅環境という木材の流れに対する価値観をある程度統一させれば、良い方向に動き出すはずです。そして、それには消費者に対して木材に関する情報を分かりやすく開示する必要があります。消費者は馬鹿ではありませんから、本当のことが分かれば、世論が形成されるからです。
木材の流れはとても緩やかです。そのために、間違ったことをしても気がつかない間に進行してしまいます。そして、間違ったことを取り返すには、間違った期間と同じ時間が少なくとも必要であることを肝に銘ずるべきと思います。(大石)
花粉症と森林との関係
先日、ある工務店さんの会合で国産材についてお話しする機会を得ました。その中で国産材を使うことは花粉症を減らすことに繋がるとお話したところ、意外にも殆どの方がその相関関係を知りませんでした。そして、その時とても喜ばれましたので今回あえて文章にしてみました。
花粉症はスギやヒノキの花粉が自動車から排出される排気ガスと化学反応を起こし、人体にアレルギー反応を起こす物質を発生することが原因とされています。スギ花粉症が圧倒的に多いのは人工林(全森林面積の約40%)の約70%がスギだからです。学術的なしっかりしたデータが少ないのは残念ですが、近年花粉症が急激に増加しているのは、排気ガスが増加しているのではなく、花粉の発生量が爆発的に増えているのが原因と思われます。(排気ガスは排ガス規制などにより昔よりもかなり減少しているのではないでしょうか。)
それではなぜ花粉の発生量が急激に増加したのでしょう。動物も植物も絶滅の危機が迫ると本能的に種の保存のための行動を起こしますが、正に国内の森林にそのような事態が起こっている結果なのです。人工林はもともと、スギやヒノキを大きく育てて、それを木材として流通させるという純粋な経済活動を目的として始められました。そのため、効率良く育成することが優先され、将来森林が放置された場合のことなど考慮されませんでした。一方で、木材を使う側の状況は当時とは様変わりしており、使用木材の8割以上が外国産となり、さらに木材価格自体が原価割れするような状況の中で、やむを得ず森林は放置されることになりました。
経済林としての人工林には定期的に下草刈りや枝打ちそして間伐などの手入れが必要になりますが、30年程前から大部分の山でそれらが行われなくなり、次第に森林の荒廃が始まったのです。そのことにより山の保水力や地耐力が低下し、山崩れや洪水が発生しやすくなり、行政はじめ各方面から状況を危ぶむ声がかなり以前から出ていました。しかし、国内の山は殆ど急峻であるために機械を使うことが出来ず、人手に頼る他ありませんが、それには膨大な経費が必要となります。結果として放置されてしまったのが現状の姿です。スギの側から言えば、将来の間伐を前提条件にして密生して植林されていますから、間伐が行われないために正常な発育は不可能です。正常なものに比べて根が短く、弱々しいものが殆どで、当然寿命も短くなってしまいます。そこでスギとしては子孫を残すために異常ともいえる量の花粉を撒き散らすより他に手がなかったと言えると思います。このように見ますと、花粉症は天災ではなく、紛れもなく人災であると言えます。
最近、テレビのニュースで花粉を発生しないスギの苗木が発明されたと比較的大きく報道されましたが、花粉症の発生を抑制するという意味からすると全くナンセンスな話であると思えます。問題は今、山に生えているスギやヒノキなどであり、これから植林するものについてではないからです。この問題を解決するには現在の人工林を健全な森林と入れ替えなければなりません。そのためには先ず、健全な森林の輪郭を明確にし、30年位の長期計画により、計画的に伐採と植林を行っていくしかないと思います。健全な森林については針葉樹と広葉樹が適度に混生した混合林が良いとされていますが、国土のデザインに関することですからより真剣な議論が必要です。また、伐採したスギやヒノキは幸いなことに住宅の建材として最良(日本の風土に対して)のものですので大いに活用できるはずです。
ただコストについては外国産のものに比べて2割位高くなります。国内の木造住宅建築費用の中で木材代金の割合は10〜15%ですから、国産材に切り替えた場合にはこの割合は12〜18%になります。消費者の大半は住宅建築費の中で木材の割合がこんなに低いことを知りませんので、外材に比べ耐久性能が格段に優れていることなどを周知させれば、国産材への切り替えは案外容易ではないでしょうか。花粉症は今や国民病とも言える状況になってしまいました。国民の生命が危険にさらされていることから考えれば、この問題は国が優先的に取り組まなければならない重要な課題であると思います。
環境保護を唱える人々の一部に木を切ってはいけないなどと勘違いをしている人がおりますが、少なくとも人工林については、切らなければ森林環境を維持できないことを是非とも認識していただきたいと思います。又、前述しましたように国が中心となって大掛りに行えば、その効果はてきめんですが、心ある人達が意識して国産材を使うことを行ってゆくことが大きな流れを作ることに繋がってゆきます。そしてその目的は国土(森林環境)保全、CO2削減、住宅環境向上及び花粉症の撲滅です。
以上によりまして冒頭に申し上げました「国産材を使えば花粉症を減らすことになる。」は「風が吹けば桶屋が儲かる。」よりもより直接的な関係にあることがお分かりいただけたと思います。(大石)